科学者はなぜウソをつくのか

科学者はなぜウソをつくのか

捏造と撤回の科学史
著者 小谷 太郎 (著者)
発売日 2015/06/26   価格 1600円(税別)
判型・製本 四六判 並製   頁数 232
ISBN 978-4-907623-15-9   Cコード C0095
発行 dZERO   発売 dZERO

捏造は科学につきものです。
知的で論理的なはずの研究者が驚くほど幼稚なウソをつき、
おまけに周囲の研究者までもがだまされるのはなぜでしょうか。

科学史に残る「過ちの瞬間」「発覚」「その後」を「撤回論文」を軸に振り返り、
「泡沫(うたかた)の夢」に迫ります。


【「はじめに」より抜粋】

科学史に燦然と輝く捏造事件を調べていくと、ある悲しい結論に到達します。それは、捏造を科学から根絶することはできないということです。

科学の発展のためには、誰でも自由に研究を行ない自由に発表できることが必要です。そしてそういう環境では必然的にある割合で捏造が発生するのです。「正しい」研究活動を促進すると、捏造・誇張・誤謬も紛れ込むのです。

もしも「正しくない」研究を根絶するため、研究者を倫理や社会道徳に合致しているかチェックし、発表の自由を制限したら、学問は停滞し、社会に多大な悪影響がもたらされるでしょう。

捏造を根絶することはできません。しかしだからといって捏造はやり放題というわけでもありません。捏造は必ず発覚します。捏造された研究成果は自然科学の法則に反するため、追試は失敗し、他の研究結果と矛盾し、遅かれ早かれ否定されます。つまり、科学は異物を排除する免疫機能を備えているのです。

本書のテーマは科学史です。といっても、登場するのは偉大な科学者ではありません。大発見の瞬間が描写されるのでもありません。登場するのは誘惑に弱い人間で、扱われるのは過ちの瞬間です。彼ら彼女らの叶わなかった夢と野望が社会に波乱を及ぼすさまを、歴史上の事件として記述するのが目的です。

そういう事件を紹介するにあたって、本書は科学を軸とし、科学の観点から論じます。捏造の舞台は派手な記者会見ではなく科学論文そのものであるという考えから、撤回された論文をできる限り入手して、一文一文を読み込みました。それがどれほど革新的な論文だったか、理解するための基礎知識を、できる限り平易に解説しました。

 

 

担当編集から一言

本書の企画の話をうかがったのは、STAP細胞事件が起こる前です。
その場ですぐに執筆をお願いしましたが、そうこうするうちにSTAP細胞事件が起こります。
できるだけ早く出版したい旨をお伝えするのと、「まだかかります」とのお答え。
それもそのはず、撤回論文の一つ一つを読み込んでの執筆ですから時間がかかって当然です。
まさに快作です。

天文台の方たちに大好評だった『サイエンスジョーク』に発揮されている洒脱なユーモアが小谷さんの持ち味です。
そのためでしょう、「捏造」というネガティブなテーマにもかかわらず、本書の読後感はさわやかです。

科学と捏造と夢。これは三位一体なのだと再確認する作品です。

第1章 STAP細胞――捏造を異物として排斥する「科学の免疫機能」
リケジョ旋風/万能細胞の開く新しい医療/論文までの苦難の道のり/うっかりミスはありえない ほか

第2章 ヒトES細胞――スター科学者の栄光と転落
禁断のヒト・クローン/疑惑報道と熱狂的な支持者/よくいえば大胆、悪くいえば稚拙/真犯人 ほか

第3章 皮膚移植――サマーリンのぶちネズミ
誰にも信じてもらえない/黒いぶちの正体/知的なはずの医学研究者が ほか

第4章 農業生物学――スターリンが認めたルィセンコ学説
学術論争がイデオロギー論争に/弁証法的唯物論に基づく学説/遺伝学研究所を乗っ取る/アカデミー総会へのスターリンの介入 ほか

第5章 ナノテク・トランジスタ――史上最大の捏造・ベル研事件
別の論文のグラフにそっくり?/絢爛豪華な実績の数々/同僚が偶然、捏造を発見/捏造者に共通する弁明 ほか

第6章 118番元素――新元素発見競争でトップを狙ったバークレー研事件
栄誉ある新元素発見/ドイツからやってきた錬金術師/消えた118番元素 ほか

第7章 常温核融合――大学間の対抗意識から始まった誤りの連鎖
ユタの核開発競争/発端は研究助成申請書/急ごしらえの世紀の発表/ポンズ教授の奇妙なガンマ線 ほか

第8章 旧石器遺跡――暴かれた「神の手」の正体
隠しカメラがとらえた瞬間/超能力者のごとき扱い/考古学者の悪夢/発覚後、周囲の研究者たちは ほか

索引