そのときそこには、
人の情けと温かさが確かにあった――。
舞台は昭和20年代から60年代の東京・深川。
気風のいい辰巳芸者(深川芸者の別称)に双子の男の子が生まれました。
実の父を知らずに育った二人ですが、他人の情けに温かく包まれながら、
すくすくと育ちます。
そしてやがて、一人は落語家に、もう一人は任侠道に。
親子・夫婦・師弟・他人の情けが織りなす東京下町人間模様です。
【あとがきより】
この小説を書くきっかけを作ってくれたのは、
私が顧問を務めていた落語立川流の家元、談志師匠である。
家元が肝臓と糖尿病の治療で入院していた平成二十三年二月、
病床で時間を持て余し、よく本を読んでいたようで、見舞いに行くと、
「三亀松(みきまつ)を読み直したよ。
あなたの作品の中じゃやっぱりあれが一番好きだな」と言われた。
平成十五年に刊行した『浮かれ三亀松』のことだ。
「三亀松が生まれ育った深川の風景が浮かんでくる。
また深川を舞台にした小説を書いてくれないかな」
家元が私にそういった注文を出すのは初めてだった。
担当編集から一言
dZERO初の「小説」であり、
落語立川流の顧問を長くつとめた吉川潮さんの作品です。
談志師匠を通じたご縁から、dZEROからの刊行となりました。
章見出しはすべて落語の演題。
そして、本書のタイトル「深川の風」は、
「江戸の風が吹いているものを落語である」という談志師匠晩年の名言にちなんでいます。
今もきっとあるはずの、「血縁を超えた〈他人同士の情け〉」を思い出させてくれます。
なんともあったかい読後感の小説です。
第一章 『辰巳の辻占』
第二章 『子別れ』
第三章 『替り目』
第四章 『つるつる』
第五章 『たらちね』
第六章 『四段目』
第七章 『高砂や』
第八章 『火事息子』
最終章 『親子酒』