かつて、知性の最高峰とされた漢詩には、
絶望をも笑い飛ばす豊かな精神を育てる力があった。
なんのために生まれてきたのだろうか?
理不尽な社会をどうやりすげせばいいのだろうか?
貧しいことは不幸なのだろうか?
その答えを、漢詩のなかに探る試み。
陸游(りくゆう)、杜甫(とほ)、蘇東坡(そとうば)、夏目漱石(なつめそうせき)、河上肇(かわかみはじめ)の5人の漢詩人の人生と漢詩を読み解きながら、現代の「ディストピア」と、漢詩が導く「ユートピア」を考えていきます。
担当編集から一言
「漢詩のなかにはユートピアとディストピアがあるんです」
著者のこの言葉から、本書の企画は始まりました。
中国、宋王朝の混乱期に生まれ、失脚と出仕を繰り返した陸游も、「修善寺の大患」のあと死を意識する日々をおくった夏目漱石も、弱者の視点で詩を書いた杜甫も、左遷さえも楽しんだ蘇東坡も、出獄後に漢詩を読んだ河上肇も、それぞれがその時代、その国で、希望のないディストピアを見ています。そして、現代にも希望を見いだせない社会が広がっている。
本書に登場する5人の漢詩人は、先人の漢詩を読むことで漢詩の中にユートピアを見つけ、さらに自身が作る漢詩の中にユートピアを読み込んでいった。漢詩には、そういうことを考えるヒントが随所に隠れていることを知りました。
漢詩を、知識としてではなく、日々の思考を鮮やかにする知恵の輪のよう楽しめる一冊になっていると確信しています。
第一章 莫 莫 莫【ああ、どうすればいいのでしょうか】
――陸游(りくゆう)、挫折のなかのユートピア
第二章 是無心【そこには無心のみがある】
――漱石(そうせき)が求めた東洋的理想郷
第三章 竟何之【どこへ行けばいいのだろう】
――杜甫(とほ)のパズルを解く
第四章 値千金【千金に値する】
――すべてを楽しむ蘇東坡(そとうば)の境地
第五章 間臥作詩【ただ寝転んで詩を作る】
――河上肇(かわかみはじめ)の桃源郷